2003年10月31日(金)
2003年10月31日の日記 [宇宙の底(旧サイトの日記)]
3週間お休みした理由といまの心境を書いてみました。相当ヘヴィなので,本当にご関心のある方のみご覧ください。
何と書いてよいのか,正直分からない。ただ確かに言えることは,『あるべき』存在を,ある日ある時ある瞬間に,永久に失ってしまった,ということだ。
10月7日夕方。携帯に一本の電話が入った。弟が交通事故にあった,という。至急病院に駆けつけたのは,事故からおよそ2時間後。そこへ横たわる人影に我が目を疑った。つい先ほどまで元気だったはずの弟が……ベッドに崩れているのだ。
懸命の処置を受けるも,ついに息を吹き返すことなく……彼は,生命現象としての『死』を迎えた。享年20才。あと,二週間で新たな歳を重ねる,はずだった??。
あまりにも想像しえない出来事に,これが現実だと,どうしても受け入れることができなかった。三週間経った現在もそうである。近頃は,弟と入れ違いの生活をしていたためか,今でも突然帰ってくるような気がして……ならない。
それからは過酷な日々が始まった。通夜に葬式に,時間は無慈悲に僕らを駆り立てる。次から次へと参列者がやってきては,人の数だけ涙に染まる式場。荼毘に付するまでのあの虚無感は,一生忘れることはないだろう。
死後知ったことだが,弟は,想像以上に大勢の友人をもっていた。もしかすると,僕が一生かかって作りうるそれよりも,大きなネットワークを築きあげていたのかも知れない。また彼は,『面白い』ことにすこぶるどん欲であった。複数のサークルを掛けもっては精力的に活動し,それに加え,趣味も多彩だった。物書きに,映画に,アウトドアに,スポーツに……何にでも顔をつっこまないと気が済まない性格《たち》だった。それ故,ひとつひとつは荒っぽかったが,短い人生を本当にエンジョイしていたのだと思う。あるいは,自分の生い先の短さを予感し,一瞬一瞬を最大限に楽しんでいたのかも知れない……今思えば,そんな風にも感じる。
今年は,不幸にも二十代の死に二度直面した。一度目の後は,「もうこんなことは当面あるまい」と思い,ダークスーツを押し入れの奥にしまい込んだ。だが,それから半年後に,再度底のない悲しみに遭遇しようなんて,誰が思うだろうか……。運命とやらがあるのなら,それは本当に残酷な語り部だ。
熱気のない弟の部屋は,三週間前,時を失った。そのままに残る遺品を目にしては,どうしようもない心持ちに頬を濡らし,薄れゆく残り香に触れては,どうしようもない虚脱感に胸を痛める,日々。そんな中,今度は僕自身に大きな転機が訪れた。来春,大学院を離れることが急に決まったのだ。とある研究所からオファーをいただき,どうやらそこで働くことになりそうなのである。答えを出すまでは,様々な想念が脳裏を掠めた。いま直面している悲しみを脇に置き,見知らぬ土地で生きてゆけるのか,と何度も自分に問いただした。そして,悩んだ末,僕なりの決断を下した??。
いろいろなことがありすぎて,逆にリアリティのない一ヶ月だったような気がする。一月前は,ありふれた日々の一コマに弟がいて,たわいのない会話をして,当たり前のどこにでもある日常を繰り返していた。それが,ある日を境に,僕らの周囲だけまったくカタチを変えてしまった。でも,世界は,変わらず昼と夜を刻みつづけている??。
時は残忍だ。ある者には終わりを,ある者には始まりを,無差別に投擲する。だが,長久の時間は,同時に癒しをももたらす,ともいう。彩《いろ》を失った日々も,いつか新たな彩に染まりゆくだろう。絶ちがたい思いが,いつの日かかけがえのない想い出に還ることを願いつつ,筆を置きたい。
Posted by 神海 螢 / コウミ ケイ at 2003年10月31日(金) 21時00分 コメント ( 0 )