2006年03月12日(日)
エーゲ海とかグローバルスタンダードとか [書評/かんそぉ]
最近読んだ本のご紹介〜。
エーゲ?永遠回帰の海
立花隆(著)/須田慎太郎(写真)
立花隆氏と写真家の須田慎太郎氏が20年以上前にエーゲ海の島々を長期取材で訪れた際の記録兼写真集(?)。なぜ本になるのにそんなに時間がかかったのかについては本書を読んでいただくとして,なかなか不思議な本であります(笑)。前半の100ページほどは写真集に数行のコピーが入っているような体裁だけど,後半は,入国することすら困難な世界唯一の修道院共和国(自治州?)アトスへの来訪記に始まり,聖(アポロン)と性(ディオニュソス)の対話,ターレスからアリストテレスまでの初期哲学者は“科学者”であったとのくだりが書きつづられています。各々のエピソードが断片的で内容もやや中途半端なのがザンネンだけど,写真集としてみるとこれだけページ(約330ページ,うち写真は150ページぐらいかな)もあって1,500円+税とは驚異的な安さですねー。立花氏も後書きで「DTPだから(この価格で)実現できた。でも,採算ギリギリのライン」と書いているほどなので,この本が出版できる時代をずっと待っていたということでしょうか。
グローバルスタンダードと国家戦略
坂村健(著)
組み込みOSしてよく使われるTRON(μITRON等)の提唱者であり,ユビキタス社会という言葉を世に知らしめた坂村健氏の著書。坂村先生の著作は比較的目を通しているのですが,この本では,“グローバルスタンダード”という言葉を聞くとすぐ右にならえとばかりに思考停止状態になる日本人への警告&啓蒙や,いかにしてスタンダードを取るのか,またそれは必ずしも標準規格(デジュールスタンダード)でなくても構わなく,時として事実上の標準(デファクトスタンダード)であってもよい,といったことが“熱い”筆致で述べられています。2003年に長年の恩讐(?)を越えてTRON陣営とマイクロソフトが提携したためか(ソース),以前のようにあからさまにMS&Windowsを叩くような文体でなくなったのが個人的に少々サミシイ(笑)ものの,一般にはRFIDタグの覇権を狙っているかのようにみえる(例えばこのあたりの記事)EPCグローバルとユビキタスID(ucode)が実はまったくの別物*であり,両者はライバル関係にはなりえないといったことが分かっただけでも読む価値はありましたね。ただ,内容が飛び飛びで,本人も文頭で書いているように文章が若干練り込まれていないのは,読み手に対してちょっと不親切だったかな。
*EPCグローバルとユビキタスIDとの違い
EPCグローバルは,バーコードと同じくID自体が意味コードであり,埋め込まれる桁数のひとつひとつに意味情報が付与されるのに対し,ucodeはコード自体は単なるユニークなIDで意味を持たず,サーバ(ユビキタスIDセンター/ユビキタス情報サービスセンター)に照会してはじめて付加情報が分かる,といった点が根本的に違います。これからのIT→ITC(Information and Communication Technology)社会において,どちらが汎用性に富むかは言うまでもないですね。
Posted by 神海 螢 / コウミ ケイ at 2006年03月12日(日) 09時56分 コメント ( 0 )